
けんえいほたくぼだいいちだんち
県営保田窪第一団地
Hotakubo Prefectural Housing Project No.1 
DATA
建物名:県営保田窪第一団地
設計者:山本理顕/
山本理顕設計工場
所在地:熊本市帯山1-28
用途:集合住宅
構造:鉄筋コンクリート造、コンクリートブロック壁式構造
竣工:1991年
備考:くまもとアートポリス参加事業
周辺地図(Mapionへのリンク)
細川知事(当時)と磯崎新によって始められた「くまもとアートポリス(KAP)」プロジェクトは、意欲的なデザインの公共建築をいくつも生み出して日本の建築デザインの進展に大きく貢献しました。とりわけ、従来は低所得層向けの福祉政策的な位置に見なされていた県営・市営住宅で、その概念を打ち破る建築が次々と実現しました。今でこそデザイナーズマンションという個性的なデザインをセールスポイントにしたマンションをよく見るようになりましたが、この流れが起こる以前にいち早く建築家を起用した熊本の公営住宅群は特筆すべき存在です。とりわけ保田窪第一団地は良くも悪くも話題になりました。
保田窪第一団地の最大の特徴は、中庭を中心とする空間構成です。住棟がコの字型に中庭の三方を取り囲み、残る一方には集会室が配置されています。 この中庭に入るためには、まず外部階段から住戸に入り、そして中庭側の階段を降りなければアクセスできないようになっています。つまり、中庭は完全に住民専用の空間で部外者は立ち入ることができないのです ※1 。この構成は、設計者が建築の空間構成が住み手の生活スタイルに大きな影響を与えてしまうことを自覚しながら、建築計画学における集合住宅の常識を根本的に問い直した結果、導かれました。
従来の計画学では、「外部→中庭→住戸」のように必ず中庭を通らなければ住戸に辿り着けなくすることで、中庭で住民同士のコミュニケーションの発生を期待しました。しかし、この設計者はそんなことは幻想だと切り捨て、「外部←住戸→中庭」という構成を考案しました。この場合、住戸は外部と中庭の双方に直接つながっているので、外部と地域社会に関わる度合いを自分の意志で決めやすくなります。極端な話、地域社会に関わりたくなければ中庭に降りなくても生活は可能だと、設計者は述べています。とは言え、あからさまに閉鎖的な外観 ※2 と開口部たっぷりの中庭側を見比べれば、新たなコミュニティの発生を期待していることは明らかです。
※1 :ここに掲載した写真は、建築関係者向けの見学ツアーで特別に中庭に入れてもらったときに撮影したものです。基本的に部外者が中庭に入ることは許されていません。なお、実は集会室に外部ドアがあって見学の時はそこから入りました。また、集会室の脇には消防車の進入路も確保されています。
この中庭空間が面白いのは、現代・古典・アジアの三要素が入り交じっている点にあります。
まず、打ち放しコンクリート仕上げのラーメン構造やコンクリートブロックの壁面のように構造形式や素材は現代的です。次に、住棟が中庭をシンメトリーに取り囲んでいる様子は列柱を思わせてどこか古典的な雰囲気さえ感じられます。求心性のある空間は住民に一体感をもたらすことでしょう。
そして、生活感の表出はアジア的あるいは下町的な雰囲気を感じさせます。コンクリートの構造体が強調されたファサードは、そのままでは無機質で殺風景なイメージしか与えませんが、洗濯物などで彩られることで実に生き生きとした表情に変化するのです。
これほど洗濯物が映える集合住宅も珍しい。コンクリートの質感と洗濯物の相性がいいのかとも思いましたが、では安藤忠雄の建築に洗濯物が似合うかというとそれはあり得ませんね。かつて、設計者は東大の原研究室で世界の集落調査に携わっています。その経験がデザインに活かされているような気がします。
物干しが生活に不可欠である以上は、下着や布団に負けないデザインこそ集合住宅に求められるのではないでしょうか。
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まるで仕上げ工事をせずにスケルトン状態で引き渡したかのような素っ気なさは、住民の入居直後はさすがに反発があったと聞きます。マスコミも批判的に取り上げました。
批判の一つに、外部側と中庭側の住棟間を結ぶブリッジ(画像08の右側)が吹きさらしだった点があります。設計者の保田窪以前の住宅建築では吹きさらしの例が(山川山荘や岡山の住宅など)いくつかあるので、ここでもあえてそうしたのでしょうが、確かに公営住宅ではかなりの冒険です。これを承認した公社も大したもの。KAPでなかったら実現しなかったでしょう。また、これは私の推測ですが、公営住宅は面積制限があるので、廊下部分を吹きさらしにして床面積には不算入とすることで、居室面積を確保したのではないかな。
まあ、この程度なら日常生活に支障はないと思います。ただし、いくら熊本とはいえ冬はそれなりに寒いので、高齢者にはちょっときついかもしれませんね。
※3:注意! 見学の際は住民のプライバシーに十分な配慮をしてください。
参考文献:
- 「JA」10号 特集:くまもとアートポリス 建築の公共性(新建築社)
- 「SD」1995年1月号 特集:山本理顕(鹿島出版会)
- 「細胞都市」(山本理顕 、INAX ALBUM12、INAX)
関連サイト:
最終更新日:2008年7月2日
作成日:2003年12月14日
撮影時期:1992年
作成者:タケ(旧名 tks )(
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