ARCHITECTURAL Map

こくりつながさきげんばくしぼつしゃついとうへいわきねんかん
国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
Nagasaki Natinal Peace Memorial Hall for the Atomic Bomb Victims

Nagasaki Peace Memorial Hall00

ホームインデックス掲示板リンクこのサイトについて参加のご案内

DATA
建物名:国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
設計者:栗生明/栗生総合計画事務所+国土交通省九州地方整備局営繕部
所在地:長崎市平野町7-8
用途:祈念館
構造:鉄筋コンクリート造
竣工:2003年3月
交通: 周辺地図(Mapionへのリンク)

まるで説明文のような施設名称(祈念館と略す)が示すとおり、この建築は原爆で亡くなられた方々の追悼と世界の平和を願うために、長崎原爆資料館(資料館と略す)の隣に建てられました。資料館と祈念館を比べますと役割が重なり合う箇所も部分的にはありますが(例えば資料館の円形アトリウムや祈念館が保管する遺影・手記)、概ね、資料館は展示物によって原爆の悲惨さを伝える教育・啓蒙の場所、祈念館は精神的な祈りの空間という役割分担ができていると考えていいでしょう。

現代建築を成り立たせる要素のひとつに機能主義があります。学校・美術館・役所・・・など用途ごとにユーザーの行動を分析すればプランは半ば決定していました。また、祈りの空間でも宗教建築ならば宗派が定める建築様式や儀式、教義がデザインの手がかりになります。ところが、この祈念館でなされる祈りという行為は極めて個人的で内省的なものです。建築計画学の視点からは行為を把握しにくいため、機能からデザインを導く従来の方法では設計は難しいと思われます。

しかし、見方を変えれば機能や前例にとらわれない設計 ※1 ができるわけで、設計者にとっては空間デザインで真っ向勝負を挑める、またとない機会でもあります。こうして純粋に空間を経験する建築が生まれました。


※1:もちろん実際には地下構造物による構造の制約、法的な規制、多数の来場者(団体客や修学旅行生)の動線処理、公式行事への対応など、設計上の縛りはいくつかあります。ここでの主旨は従来のビルディングタイプに縛られないという意味です。

Nagasaki Peace Memorial Hall01 Nagasaki Peace Memorial Hall02
01 02
長崎市は傾斜地に建物が密集していることから周りを見渡すとどうしても間近に他の建物が見えてしまう上に、敷地面積も必ずしも十分ではありません。この点は、丹下健三が総合的に計画した広島の平和公園に比べると不利な部分です。

これを補うための仕掛けが円形の植栽と水盤です。背の高い植栽で周囲の視界を遮断し、水盤を巡ってアプローチすることで歩行距離を稼いで、その過程で来場者の気持ちを切り替えようとしています。

水盤にはガラス製の壁のようなものがふたつ、鎮座しています。横長のモノリスといった雰囲気です。水盤をぐるりと巡ると階段に行き着きます。祈念館の空間は全て地下にあって、ここがその入口です。


Nagasaki Peace Memorial Hall qtvr
←これはパノラマ形式のQuickTime VRファイル(164KB)です。水盤の様子を一望することができます。ご覧になるにはQuickTime Playerが必要です。入手先はこちら。画面上で左右にマウスドラッグすると画像が横にスクロールします。なお、ファイルを開いた時点ではなぜか若干ズームインした状態ですので、下部のマイナスボタンをクリックしてズームアウトしてください。

Nagasaki Peace Memorial Hall03 Nagasaki Peace Memorial Hall04
03 04
最大の見所はなんと言ってもこの追悼空間。12本のガラスの柱が並ぶ広大な地下空間は圧巻です。列柱の奥のガラスケースには原爆死没者の名簿が納められ、このケースを見た方向の先には爆心地があります。前述したふたつのガラスの壁に挟まれた部分はトップライトになっており、そこから地下に光が差し込んでいます。さらにガラスの柱に仕込まれた照明の光が空間を淡く照らし出して、荘厳であると同時に幻想的なイメージを与えています。

ところでこの空間がキリスト教会の三廊式と呼ばれる平面に似ていると気付いた人も多いでしょう。列柱や上からの光で垂直性を強調する演出はゴシック様式を思わせます。しかしながら教会建築の単なるコピーには終わっていません。本来なら建造物を構造的に支えるべき柱がここではガラスに置き換えられたことで(つまりこの柱は荷重を負担しておらず構造的には必要ない)、物質の重さや存在感が希薄になっています。コンクリート打ち放しの巨大な壁面に囲まれた地下空間に浮かぶ結晶のような柱の集合体──この現実離れした光景を見ていると、身体から精神が遊離するような、という表現が決してオーバーではないくらい研ぎ澄まされた気持ちになります。

確かに教会建築を下敷きにしているかもしれませんが、ガラスによる効果的な演出の結果、独自性のある高度に抽象的な空間が成立しています。ガラスの使い方にかけては日本では栗生明が第一人者とみて間違いないでしょう。


Nagasaki Peace Memorial Hall05 Nagasaki Peace Memorial Hall06
05 06
かつてあれほどの戦禍を経験したにもかかわらず、日本では戦争をテーマにした建築物や戦跡 ※2 の数は十分とは言えません。また、展示内容を巡って主義・主張から対立する場合もあります ※3

そもそも、建築で平和を訴える行為がどれほど有効なのか。戦争とテロと暴力が吹き荒れる現実世界を前にすると疑問を持たざるを得ません。私は、こうした状況に設計者は美しいものを造ることで抵抗を試みたのではないかと思います。戦争が徹底的な破壊行為であるなら、その正反対である美の創造こそ建築や芸術や文化がなし得る抵抗運動でしょう。

壊されるときは一瞬ですが。


※2:実はよく探せばいくつもの戦跡が残っていますが、保存のための補修は不十分で、場所の情報さえあまり整理されていません。ですが近年は書籍やネットで戦跡保存に向けた動きが見受けられます。

※3:例をあげると昭和館(東京都、設計:菊竹清訓)は戦争責任に関する展示内容の是非について対立がありました。また、スミソニアン博物館(アメリカ)のエノラ・ゲイ号(広島に原爆を投下したB29爆撃機)の展示が原爆の惨禍に触れていないため、被爆者団体が抗議しました。戦争関連の建築では立場の違いによる対立は不可避で、双方が納得するような展示は極めて困難であるだけに、施主には強いポリシーが必要です。

※4:ちなみに広島にも同様の祈念館があります。設計は丹下健三・都市・建築設計研究所


最後に苦言があります。「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」 この長くて堅苦しい名称はどうにかならないのでしょうか。正確な名称は結構ですけど、大人でさえ一度聞いただけでは覚えられないようなものを、ましてや子供達が正しく覚えるなんて絶対に無理。ぜひ再考していただきたいものです。

参考文献:
関連サイト:
最終更新日:2008年7月2日
作成日:2004年7月14日
撮影時期:2003年11月
作成者:タケ(旧名 tks )(blogmail

このページのトップ長崎インデックス
(C) Copyright 1998 FORES MUNDI All Rights Reserved.