





その後,空き家となった建物に目を付けたのがイギリスを代表する美術館のテート ギャラリー(現在のテート ブリテン)です。増え続けるコレクションの展示・収蔵スペースに困っていたテート ギャラリーでは,旧発電所の建物をテート モダンという名の現代美術館に改修してそこに現代美術の作品を移す計画を立て,改修を行う建築家をコンペで募りました。
このコンペに勝利したのがスイスの2人組建築家ヘルツォーク&ド・ムーロン(以下,H & deMと略す)でした。既に建築デザイン界では注目されていたとはいえ,テート モダンが彼らの実質的な世界メジャーデビュー作と言えるでしょう。

【ミレニアム ブリッジからセント ポール大聖堂を見る】
テムズ河には,テート モダンの煙突とセント ポール大聖堂を結ぶようにミレニアム ブリッジが架かっているので,現地を訪れたらまず川岸や橋の上からふたつのランドマークが生み出すシンボリックな景観をじっくり鑑賞するとよいでしょう。煙突の高さはセント ポール大聖堂の111mを超えないよう,それよりわずかに低い99mに抑えられています。ただ,川の両岸に離れている上にプロポーションが全く異なるので高さの違いはほとんど分かりません。
ドームを持つ大聖堂,大空間を持つ発電所,独特な吊り構造の橋と,建設時点でのテクノロジーが三者三様に表れています。バロック,アールデコ,ハイテクと様式が異なるそれぞれに個性的な建造物の間を往来すると,近世から現代に至るロンドン都市史のダイナミズムが味わえて面白い。伝統を重んじる一方で新しいものを随時取り入れてきたロンドンの建築・都市景観の歴史的変遷が身をもって感じられます。
ミレニアム ブリッジの独創的な吊り構造は,教会と発電所という用途も外観も全く異なるふたつの大規模建築物を結ぶ媒介としての役割を考えると,納得できるものです。凡庸なデザインでは埋没してしまいますし,かといって存在感がありすぎても景観を乱してしまう。高さを抑えつつ船舶の通行を妨げないよう橋脚の数を最小限にして,しかもミレニアム事業にふさわしい象徴性を与えるという問題に,この橋は見事に答えています。もっとも,揺れすぎるとして開通直後にしばらく閉鎖されたトラブルまでリスクを恐れないロンドンの先進性の表れと解釈しては,さすがに好意的すぎるでしょうか(ちなみに揺れたのは大勢の歩行者による共振が原因)。
遠目にはさほど感じないものの,橋を渡って建物に近づき巨大なレンガの壁面の前に立つと,ここがかつて発電所だったのだと気付かされます。美術館への改修を手掛けたH & deMといえば表層(端的に言えば外壁)の独特な作風(例えば東京のプラダ ブティック青山)で知られていますが,このテート モダンでは表面的な意味での“H & deMらしさ”はあまり目に付きません。外観の大きな変更点といえば上部のガラスボックスぐらいで,それとて控えめなデザインに抑えられています。つまり,あれだけオリジナリティのある建築家でも元の建物の持ち味を活かす手法をとっているわけで,いかにヨーロッパの建築家達がリノベーション/コンバージョンの基本を習得しているかがうかがえます。
【04】の右下を見ると,建物の下部に向けて大きなスロープが潜り込んでいるのが分かるでしょうか。これがメインエントランスです。では,中に入ってみましょう。
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